三十歳になる

二日前に三十歳の誕生日を迎えた。

今日、介護のパートの早番だ。午前六時には出勤する。

いつもなら午後九時に布団に入り、午前四時に起きる。

起きたら一時間電気ストーブの前でぼうっと何もせず、

五時に顔を洗い歯を磨き、冷蔵庫から弁当に具を詰めて支度する。

朝ご飯を食べて五時三十分には家を出る。

なのに午前0時。こうしてこのような文章を書いている。

 

一ヶ月もたたず、介護のパートを黙って辞めるのだ。

 

元々は小説家を目指していた。

部屋にこもっている俺を親は悲しんだ。

工場の定職に就くと、親との関係がすこしほぐれた。

工場に勤めながら小説を書いていたが、なかなか進まない。

一旦工場を辞めて賞に出す小説を完成させる。

賞には一次選考も通過しない。

 

再び工場にアルバイトとして戻る。

そのころに妹の勧めで精神科に行く。

不安を和らげる薬をもらう。

最近知ったのだが、医師が書いた自立支援制度の紹介状を

市役所の人に見せてもらう。

自分が不安障害、広汎性発達障害であることがわかる。

 

就職活動をして介護職を目指す。

そのうちの一つに未経験のため正社員になることを目安にパートとして働く。

入社前に「薬は飲んでいるか」と聞かれる。

俺は抗うつ剤と睡眠安定剤を常飲している。

その問いに「いいえ」と言う。

覚えることが多すぎて小説どころではなくなる。

 

しかしこれで無職になる。小説が書ける。

しかしこの一ヶ月、小説から遠ざかったおかげでなんのアイデアも出ない。

今更小説を書いたところで誰が喜んで、誰を救うことが出来るのだろう。

ただの時間の浪費なのではないか。

また自分は部屋にこもるのか。

親の悲しい顔を見て過ごすのか。

小説を書いていても現実世界では何の発展もない。

部屋にこもっていたせいで歩き方がおかしくなり、会話が出来なくなった。

働いてから部屋にこもるのが怖くなる。

もはや小説を書く気はない。

 

先ほど居間に行くと俺の大好きなホットケーキがラップに包まれていた。

母親が作ってくれたのだ。

母親は俺が今の仕事でうまくやっているか心配していた。

気が休まるからと俺がよく飲んでいた、ホットミルクを買ってくれていた。

春の暖かい気候だというのに。

 

自分がどうして介護職を辞めるのか。

よく分からない。

高校一年の時に不登校になったときも、

親や担任の先生に上手く説明できないでいた。

十三年経った今なら説明できる。

介護職を辞める理由も時間が経てばきっとそれも説明できるのだろう。

 

いつも頭の中が空虚で、抜け殻だ。自分の気持ちなど常にない。

今、外は雨が降っている。

今日、ある場所に行こうと思ったのだ。

自分が書いてきた作品を公開して、在る場所に行こうと。

介護職を辞めようと思った昨日の帰り道の十五分間で全部考えていたことだ。

在る場所に行くことが自分のやりたいことだ。

勝手だと思うかも知れないが、

人にかかる迷惑を最低限にとどめたやり方を自分なりに考えた。

雨が降っていようが関係ない。

作品の投稿が終わったらその場所に行こうと思う。